A. 人獣共通感染症

 

Dermatophytes (皮膚糸状菌)

 皮膚角質層を侵す各種糸状菌を病原真菌学の立場から便宜的に皮膚糸状菌と総称され、約30種報告されている。これらの菌種は主に大分生子の形態により、Trichopyhton (白癬菌) 、Microsporum (小胞子菌) とEpidermophyton (表皮菌) に分類されている。ヒトおよび実験動物において主要な皮膚糸状菌 (人獣共通病原菌) とされているのは、Trichophyton mentagrophytes (T. mentagrophytes ) 、Microsporum canis (M. canis ) 、Microsporum gypseum (M. gypseum ) である。
 本菌はマウス、ラットなど多くの実験動物に感染する。マウス、ラット、モルモット、ハムスターおよびウサギなどはT. mentagrophytes による感染が多い。またイヌ・ネコはM. canis の感染率が高い。病変は頭頸部、背部をはじめ全身各部位に形成され、円形ないし不整形に被毛の脱落、欠損がみられる。紅班、丘疹、燐屑が認められるが、痒感はほとんどない。また黄色ブドウ球菌などによる二次感染により痂皮形成を起こす場合がある。伝播は、主に感染動物との接触感染により起こるが、空気感染を起こすこともある。また本菌感染者の手指から動物への感染も成立する。
 本菌の検査法は菌分離が最適であり、病変部、被毛などを、ポテトデキストロース寒天培地やサブローブドウ糖寒天培地に接種し、25℃、1~2週間培養後、同定する。

左: 白癬菌コロニー (ポテトデキストロース寒天培地、25℃、2週間培養)    右: 白癬菌自然感染ラットの皮膚病変: 不整形の被毛脱落 (脱毛) 、皮膚の紅斑

左: 白癬菌コロニー (ポテトデキストロース寒天培地、25℃、2週間培養)

右: 白癬菌自然感染ラットの皮膚病変: 不整形の被毛脱落 (脱毛) 、皮膚の紅斑

Hantavirus (ハンタウイルス)

 ハンタウイルスは、ブニヤウイルス科に属するRNAウイルスである。
 本ウイルスは人獣共通感染症として注意を要する。実験動物の分野ではラットの自然感染のみが報告され、不顕性だが、持続感染して糞尿や唾液中にウイルスを排泄する。ヒトへの感染はそれらに接触すること、乾燥した糞尿からエアロゾルとしてウイルスを吸い込むこと、および感染動物の咬傷による。ヒトの症状の特徴から2つのタイプ、腎症候性出血熱 hemorrhagic fever with renal syndrome (HFRS) とハンタウイルス肺症候群 hantavirus pulmonary syndrome (HPS) に分けられる。
 1970年~1984年には実験用ラットを汚染源として動物実験施設の従事者にHFRSが発生し、22機関で126名の患者 (うち1例死亡) が報告されている。1984年以降、発生していない。しかし、国内の主要な港湾地区ではハンタウイルスに感染したドブネズミの生息が確認され、また、接種材料に混入したウイルスから動物が感染した事例もあるので、注意が必要である。
 診断法は抗体検査が一般的である。

 

Lymphocytic choriomeningitis virus (LCMV: リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス)

 LCMVは、アレナウイルス科に属するRNAウイルスであり、マウス、ハムスター由来の人獣共通感染症として注意を要する。
 主として自然宿主はマウス、ハムスターであるが、ラット、モルモット、イヌ、ブタ、サル類およびヒトに病原性を有する。胎子期、新生子期マウスに感染すると、抗体産生や細胞性免疫が誘導されない免疫学的寛容が成立し、生涯持続感染する。持続感染した動物は唾液や糞尿中にウイルスを排出し続け、それが経気道的、経皮的に水平感染する。また、垂直感染を起こし、親から子へ持続感染が引き継がれる。成熟マウスが感染すると、一過性のウイルス血症がみられ、抗体が出現する。ハムスターも症状を呈さず持続感染し、6ヶ月にわたりウイルスを排泄する例が報告されている。また、腫瘍細胞など感染動物由来の生物材料の汚染が感染源となることが知られている。
 LCMウイルスのヒトへの感染は汚染動物の排泄物及び動物由来生物材料からの経口感染、皮膚の傷からの直接感染、汚染エアロゾルによる経気道感染による。
 診断法は抗体検査が用いられる。腫瘍細胞などの生物材料の汚染検査法はPCR法検査が可能である。

 

Salmonella spp. (サルモネラ)

 サルモネラ属菌は、腸内細菌科に属するグラム陰性の小桿菌で、多くの菌種が存在するが、実験小動物において重要なサルモネラは、Salmonella typhimuriumSalmonella enteritidis である。実験小動物では、マウス、ラット、ハムスター類、モルモットそしてウサギなどほとんどの動物種からの分離報告例があり、この中でマウス、モルモットは高感受性であり、ウサギは抵抗性である。またマウスでは感受性に系統差があり、BALB/c、C57BL、B10D2やDBA/1は感受性で、CBA、A/J、C3H/HeやDBA/2などが抵抗性であることが報告されている。
 本菌は経口感染にて伝播し、その経路は感染動物との接触、糞便などであり、ハエ、ゴキブリなどの衛生害虫が媒介する場合もある。またモルモットでは経口感染より結膜感染が重要視されている。
 マウスの急性感染例では、臨床症状を呈することなく急性敗血症死することが多い。亜急性ないし慢性感染例では立毛、元気消失、下痢、軟便や削痩などが見られるが、一般的に症状は軽く、死亡率も低い。感染耐過回復しても保菌状態は継続し、糞便中に排菌し続ける。モルモットでも急性感染例では、マウスと同様に無症状で敗血症死例が認められる。
 診断は菌分離により行われており、病変部、糞便あるいは結膜のフキトリ材料を、DHL寒天培地あるいはSS寒天培地などの腸内細菌分離用培地に接種する。

<i>Salmonella </i>感染モルモットの脾臓病変: 脾腫、チフス結節

Salmonella 感染モルモットの脾臓病変: 脾腫、チフス結節

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