E. 通常は病原性はないが、飼育環境の指標になる微生物

 

消化管内原虫

(1) Giardia muris (ジアルジア; カテゴリーC)

 7~13×5~10μmで、丸みをおびた洋梨形で、4本の鞭毛を有する鞭毛虫類である。皿が回転するような特徴的な動きをする。実験動物ではマウス、ラット、ハムスター、スナネズミが自然宿主である。主として十二指腸に寄生する。多くの場合無症状で経過する。発病個体には、腹部膨満、下痢などが認められる。免疫不全動物では、通常動物に比べ発病する可能性が高い。

<i>G. muris</i> : 透過型電子顕微鏡像

G. muris : 透過型電子顕微鏡像

 

(2) Spironucleus muris (スピロヌクレウス; カテゴリーC)

 7~9×2~3μmで、他の原虫に比べ小型で細長く、動きは早く直線的である。前部に6本、後部に2本の鞭毛を有する鞭毛虫類である。実験動物ではマウス、ラット、ハムスター、スナネズミが自然宿主である。主として小腸上部に寄生する。一般的に幼若マウスでは発病しやすいとの報告があるが、多くの場合無症状で経過する。発病個体には、下痢、体重減少が認められ死亡する場合もある。免疫不全動物では、通常動物に比べ発病する可能性が高い。

<i>S. muris</i> : 透過型電子顕微鏡像

S. muris : 透過型電子顕微鏡像

 

(3) Chilomastix bettencourti (キロマスティクス; カテゴリーE)

 13×8μmで形態は細長く、4本の鞭毛を有し、大腸に寄生する。実験動物ではマウス、ラットおよびハムスターに寄生する。回転するような動きが特徴である。病原性はない。

 

(4) Entamoeba muris (ネズミアメーバ; カテゴリーE)

 8〜30µmの大きさで類円形〜不整円形の肉質虫類で、偽足を出しながら移動、いわゆるアメーバ運動をする (鏡検時のポイント) 。シストを形成し、正常便中に排泄される。感染は成熟シストの経口摂取により、大腸にて栄養体となり定着する。病原性はない。

<i>E. muris</i> : 光学電子顕微鏡像

E. muris : 光学電子顕微鏡像

 

(5) Octomitus intestinalis (オクトミタス; カテゴリーE)

 6~10×3~5μmで卵円形、後端が尖り、左右対称である。6本の前鞭毛、2本の後鞭毛を有する鞭毛虫類である。大腸に寄生する。実験動物では、マウス、ラットおよびハムスターに寄生する。大きさはトリコモナスより小さく動きが早いのが特徴である。病原性はない。

 

(6) Tritrichomonas muris (トリコモナス; カテゴリーE)

 16~26×10~14μmで、洋梨状、前部は丸く、後部は尖った形態を示す。3~5本の前鞭毛と1本の後鞭毛を有する鞭毛虫類である。主として大腸に寄生する。マウス、ラット、ハムスターおよびスナネズミに寄生する。波動膜を有するのが特徴的で、それを確認することが鏡検時のポイントである。病原性はない。

<i>T. muris</i> : 透過型電子顕微鏡像

T. muris : 透過型電子顕微鏡像

外部寄生虫

(1) Myobia musculi (ハツカネズミケモチダニ)

 コンベンショナルな環境にて飼育されているマウスに散見される。体長は0.3~0.5mmで白色、長楕円形である。軽度な感染では無症状だが、重度感染例では掻痒、脱毛、皮膚炎が認められることがある。

(2) Myocoptes musculinus (ネズミケクイダニ)

 コンベンショナルな環境にて飼育されているマウスに散見される。体長は雌が約0.3mmで白色、楕円形、雄は約0.2mmで白色、菱形である。ほとんどは無症状で推移する。

(3) Psoroptes cuniculi (ウサギキュウセンヒゼンダニ)

 ウサギの外耳道表面に寄生し、過去、コンベンショナル飼育環境にて散見された。体長は雌0.4~0.75mm、雄0.37~0.55mmで、痂皮や組織を摂取する。感染個体は、掻痒感が強く頭を強く振り、痂皮形成、外耳道から悪臭を放つ分泌物の流出が認められる。

左: <i>M. musculi</i>  (ハツカネズミケモチダニ) 虫体    右: <i>M. musculi</i>  (ハツカネズミケモチダニ) 虫卵がマウス被毛に付着

左: M. musculi (ハツカネズミケモチダニ) 虫体

右: M. musculi (ハツカネズミケモチダニ) 虫卵がマウス被毛に付着

蟯虫

(1) Aspiculuris tetraptera (ネズミ大腸蟯虫; カテゴリーC)

 主にマウスの結腸に寄生する。体長は雄3.4mm、雌4.4mm前後で、肛門周囲には産卵しない。感染は糞便中に排出された虫卵の摂取で成立する。
 感染マウスには、結腸部に腸管肥厚などの病変が認められる。下痢や死亡はないが、免疫不全マウスでは、重症化する恐れがある。
 診断法は、大腸内の虫体の確認による。Syphacia spp. (盲腸蟯虫) との鑑別点は、頭部の頸翼 (逆三角形様) および虫卵の形態 (左右対称性の紡錘形) である。

左: <i>A. tetraptera</i>  (ネズミ大腸蟯虫) 雌成虫頭部: 光学顕微鏡像    右: <i>A. tetraptera</i> 雌成虫頭部の光学顕微鏡像拡大

左: A. tetraptera (ネズミ大腸蟯虫) 雌成虫頭部: 光学顕微鏡像

右: A. tetraptera 雌成虫頭部の光学顕微鏡像拡大

 

<i>A. tetraptera</i> 雌成虫子宮内に見られる虫卵

A. tetraptera 雌成虫子宮内に見られる虫卵

 

(2) Syphacia spp. (盲腸蟯虫; カテゴリーE)

 盲腸に寄生する蟯虫であり、マウスはS. obvelata (ネズミ盲腸蟯虫) 、ラットはS. muris (ラット蟯虫) である。盲腸蟯虫の病原性は極めて低い。盲腸蟯虫は肛門周囲に虫卵を産卵するという特性がある。
 診断法は、肛門周囲のセロファンテープ法による柿の種状の虫卵の確認、あるいは盲腸内の虫体の確認による。

左: <i>S. obvelata</i>  (ネズミ盲腸蟯虫) 成虫: 光学顕微鏡像    右: <i>S. obvelata</i> (ネズミ盲腸蟯虫) 虫卵: 光学顕微鏡像

左: S. obvelata (ネズミ盲腸蟯虫) 成虫: 光学顕微鏡像

右: S. obvelata (ネズミ盲腸蟯虫) 虫卵: 光学顕微鏡像