執筆

新マウス・ラットの微生物検査項目セットの設定

高倉 彰

  (財) 実験動物中央研究所ICLASモニタリングセンター (MC) では、2000年に①MCが提唱している各微生物のカテゴリーを念頭に置くこと、②動物実験施設における各微生物の汚染率を考慮すること、③新興感染症を加えること、④ユーザーの要望に答えることを基本的な考えとして、検査項目の見直しを行い現在に至っている。それから10年経過し、実験動物を取り巻く環境は大きく変化している。そこでMCは、2000年の見直しの際の基本的な考えを踏襲しつつ、従来からある検査項目セットに加え、現状にあった検査項目セットを新たに設定し、2011年4月から検査受託を開始した。
 以下、その背景および新検査項目セットについて解説する。

1.新検査項目セット設定の背景

①微生物の病原性別カテゴリーの見直し

 Pasteurella pneumotropica (Pp) とCitrobacter rodentium (Cr) の病原性を見直し、カテゴリーを変更することにした。まず、PpをカテゴリーCからDに変更した。その理由は、本菌はわが国のマウス動物実験施設における汚染率は高いが、文献的にも単独感染で肺炎を起こすことが報告されていないこと、そして免疫機能が正常な自然感染マウス・ラットには、剖検所見において病原性がないことが確認されていることから、免疫機能正常マウス・ラットにおいては、カテゴリーCから除外すべきと考えた。一方において、免疫不全マウス・ラットには病原性があることが報告されていることから、そのカテゴリーを日和見病原体であるDに位置づけた。次にCrは、哺乳マウスの感染では致死的であるが、離乳後マウスでは不顕性感染であること、1980年代初頭以降わが国において感染報告がなく、汚染率が低いことからカテゴリーをBからCに変更した。

②動物実験の目的の変化

 遺伝子改変技術の進歩により、多くの動物実験施設の実験目的がその技術を用いた疾患モデルマウスの作出、解析に移行している。その中でも、特に免疫系を操作した遺伝子改変マウスが多く作出されており、それらへの日和見病原体に対する微生物コントロールは重要であると考え、免疫不全マウス・ラット用の検査項目セットを設定した。

③動物福祉への対応

 動物愛護法が改正され、3Rへの配慮が動物実験にも求められるようになり、動物実験施設の微生物コントロールにおいても配慮が必要であると考えた。たとえば、免疫機能正常動物に病原性がない日和見病原体の感染が起きた場合、それらが実験自体に影響を及ぼさなくても、施設全体の微生物コントロールが優先され、動物の淘汰が過去実施されてきた。このような不幸な事態を防止するためにも、施設の微生物コントロールを免疫正常動物と免疫不全動物 (実験目的別) に分けるべきであると考えた。

2.新検査項目セット

 新検査項目セットを設定した目的は、免疫機能正常マウス・ラット (通常動物) と免疫不全マウス・ラットの微生物コントロールを分けることにある。そのため新検査項目セットには、それぞれの動物の微生物コントロールに最低限必要な検査項目 (コアセット) を設定した。一方、各施設の微生物コントロールにおいてコアセットでは検査項目が不足する場合は、実験目的に応じオプション項目から選択できるようにした。以下、各セットを紹介する。

①通常動物コアセット

 マウスでは、現在ある培養IセットからPpとCrを除外し、ラットではPpとStreptococcus pneumoniae (Sp) を除外した。マウスにおいてPpとCrを除外した理由は、カテゴリーの変更が主な理由である。次にラットにおいてSpを除外した理由は、MCにおいて1990年代初頭以降検出されたことがないこと、そして感染しても不顕性感染にて推移し、病原性が低いためである。

②免疫不全動物コアセット

 マウスでは、上記通常動物コアセットの培養検査にCrと、免疫不全マウスの微生物コントロールに必須な日和見病原体であるPp、Staphylococcus aureus (Sa) 、そしてPseudomonas aeruginosa (Pa) を加えた。また鏡検に、同じく日和見病原体であるPneumocystis carinii (Pc) を加えた。次に免疫不全マウスが感染した場合、重症化する恐れがあるHelicobacter hepaticusHelicobacter bilis を必須検査項目として加えた。
 ラットでは、通常動物コアセットの培養にSpと、日和見病原体であるPp、SaおよびPaを加えたセットとした。

3.免疫不全動物コアセットに対応したサンプリング

 本コアセットへの対応において、苦慮するのは通常動物と免疫不全動物の区分であると思われる。ヌードやscidのような市販されている既存の免疫不全動物においては判断に迷うことはないが、遺伝子改変技術により免疫系が操作された開発途上の動物をどのように取り扱うかは迷うところである。しかしこれら動物も、基本的には免疫不全動物候補であると考え、微生物コントロールには免疫不全動物用コアセットを適用すべきであると考える。
 次に、本コアセットに適した検査対象動物には、免疫不全動物と同じ環境で飼育された動物 (たとえばnu/+など)が適している。しかし、免疫機能正常動物であることから、Pcの検出感度は低下する。それを防ぎ、Pc等の検査精度向上を目指すのであれば、コアセットの培養、鏡検、PCR検査には免疫不全動物、抗体検査には上記動物を組み合わせて検査対象とするのも選択肢のひとつである。

(LABIO 21, No.42, Oct. より編集)